エルメスというブランド
先日土曜日はずっと行きたかったエルメス レザー・フォーエバーに行ってまいりました。
エルメスのケリーバッグや、バーキンなどの代表的なカバンは知っていましたが、今までの生活には全く縁のないブランド。エルメスが今でも手縫いでカバンをつくっていることすら知りませんでしたので、びっくりしてたくらいなのです。手縫いでカバンをつくっていますと、どうしても情報が入ってくるブランド。それが私にとってのエルメスです。
革を使った製品づくりを学ぶという事は、自ずと肉食文化の長い歴史あるヨーロッパの革の文化を学んで行くことになります。そしてその中の1ブランドであるエルメスに行きついたようです。
今回のエルメスレザー・フォーエバーは多分多くの方がレポートされてると思いますので、私は『つくり手』の目線で見てきたこと、思ったことを書こうと思います。
いざ上野へ
開催されたのは上野国立博物館の表慶館。なんと館全体を貸しきって、しかも無料で参観できるという。なんとも豪奢な企画なのです。これは見に行かない手はありません。
国立博物館表慶館のライオンがお出迎えです。フラッシュを使用しなければ撮影も自由とのこと。
まず、最初に入りますと沢山の革が展示してありまして、手にとって触ることが出来ました。展示してある革は、エルメスの代表的な素材。Togo(トゴ) Taurillon Clémence(トリヨンクレマンス)などが吊るされた状態で飾ってあります。くも舎の制作所にもこれだけ革のストックがあれば嬉しいんですけどね‥
革は、厚み、手触りなどじっくりと見ることができます。
手縫いという原始的な製造方法
革鞄を手縫いでつくるということは、本当に時間がかかりますし、大変な労力がかかります。どんなに熟練した技能の持ち主でも基本的には製法は同じです。エルメスの職人さんが、目の前で鞄制作してくれるということで、フランスからやって来た職人さんの周りはぐるりと人だかりができます。ほとんどがエルメスを愛好するマダム達で、数人私と同じ職人らしき人が混ざっているという感じです。ちょうどケリーバッグをつくっているところを見学させてもらいました。
どうしても右側から見たかったのでベストな位置に立てたのはラッキーでした。食い入るように見つめられて、良くつくれるなア…と感心してしまいます。周りを囲んでいる人から多くの質問が飛び交います。職人さんはもちろんフランス語しか解しませんので、通訳の方を挟んで丁寧に答えてもらってました。私が聞きたかったことは殆ど別の方が質問していました。やりとりをどうぞ。
「ケリーバッグを作るのにどれくらい時間がかかりますか?」
― 私は約20時間位です。
「一番緊張してつくっている場所はどこですか?」
― 14年つくってるので緊張はしませんが、持ち手は重要だと思います。一番先につくります。
「一年に何個くらい鞄をつくりますか?」
― 何個つくったか数えていないのでわかりません。
「つくり手の最高齢は何歳ですか?」
― 67歳のつくり手がいます。
「こちらの糊とこちらの糊、違いは何ですか?」
― それは企業秘密です。笑
「一日にどれくらい働いてますか?」
― 8時間くらいです。
エルメスの鞄を作るための道具
革の制作をしようとすれば、レザークラフト道具は日本でもひと通り揃いますが、だいたい売っているものは同じものになります。扱っている会社がそもそも少ないのもあるでしょうし、わざわざ別のものじゃなくても十分な機能・性能・価格を持っているからでしょう。それではエルメスの道具はどうかと言うと、当たり前ですが、日本ではお目にかからない、フランスから持ってきたであろう道具類を間近で見ることになります。この丸い刃物はフランスのブランシャール社製ヘッドラウンドナイフと言うそうです。日本の刃物と違って押して革を切るナイフなんですね。個人的にはどうしても引いて切る方が便利だと思いますが…。欧米だと、のこぎりも押して切ります。道具のちょっとした違いでもお国の違いを実感しました。
ゴム台。穴を開けたりするときに使用するものですが、これまたフランス製。日本だと真っ黒なゴム板しか見たこと無いんですよね。ゴム板にブランドのシールが貼ってあるのを見るのもなんだかおしゃれで新鮮でした。ただのゴム板なんですけどね。
ゴム製の槌。おお!フランスFACOM製ですよ。木槌が普通だと思ってたんですがそうでもないんですね。しかも現代っぽい。面白い。機能を満たしていれば何でも問題ない。という考え方があるんでしょう。
ロウは三種類。この三つを使い分ける場面まで見られなかったんですが、机の上に三種のロウが置いてありました。縫い糸をロウ引きするものと、コバ(切断面)に塗るロウなどでしょうか。岩塩みたい。
ピック類はコルクへ。沢山のピック類がありまして、太さ、長さなどが違ってくるんでしょうが、ピカピカに磨かれた道具がコルクのブロックに刺さっていました。これ真似しよう。
目打ち。使用しているのは10本目のいわゆるヨーロッパ目打ちでした。ピッチは3mmくらいですかね。これもフランスのブランシャール製だと思います。とても年季が入ってます。
肝心の馬。近すぎてピントが合いませんでした。エルメスの手縫いと言ったらこのブランシャールのウマです。足に挟んで使用します。くも舎のSPFで自作した馬は、道具としての美しさではかないませんけど、機能的には負けていないと思います…
目打ちをしています。ここで目打ちの穴を貫通させないことを強調して、実際に手にとって見せてくれました。理由としては貫通させると目打ちの穴が大きく広がってしまうからです。手縫いする時にひと目ひと目をピックで刺して、穴を貫通させてから針を通すことになります。これすごい手間がかかります。でも縫い上がった目は綺麗になります。
「外縫いと内縫ではどちらが大変ですか?」
― 外縫いです。
多分、14年もつくっているベテランなら、外縫い、内縫いどちらも大変さは変わらないんでしょうが、即答でした。私は使用している革が厚手のタンニンなめしのヌメ革なので、どうしても外縫いをする事になります。でも、これが柔らかいクロームなめし革で外縫いだったら、確かに大変かもな…と思います。『外縫いが大変。』とは、作業自体の大変さもあると思いますが、コバ(革の断面)の審美的な意味での大変さも込められての答えなのだと思います。
充実の一日
エルメス レザー・フォーエバー。ほとんどの時間を職人さんの見学に費やしてしまいました。でも全く疲れない。刺激的で楽しくて仕方がなかったです。すべての展示を見終わって、表慶館の裏口から出ると、太陽の眩しい光と、キンと張りつめた冬の空気で、まるで映画館から出てきたような錯覚を覚えました。すっかり銀杏の葉もおちて、地面が黄色に。ちょうどお昼になりましたので、東京藝術大学近くのカフェで暖かいコーヒーを飲みながら、手縫いで鞄をつくるモチベーションがとても高くなりました。
よろしければ写真もどうぞ
話が長くなってしまいますので、私が特に気になった写真を掲載したいと思います。写真を見てると、革製品は作った時が100%では無く、長年使用することに味が出て価値がでるのが良くわかります。
23日までです。是非行ってみてください。
詳しくは↓↓こちらへ。今はリンク先は無くなったようです。
Hermès — Leather Forever
Leather Forever… 22 days forever in your heart. Tokyo National Museum, Hyokeikan, Tokyo, from the 2nd to 23rd December.
LFE.HERMES.COM
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