コロナウィルスの猛威は夏には収束するだろうと予想してましたが、9月に入っても未だ衰えず、このまま年を越してしまうのでしょうか。
当初は混乱したマスクの装着や手指の消毒なんかは、今となっては日常のルーチンとなってすっかり浸透しています。お店の入り口に消毒用のポンプが置かれているのは当たり前の景色です。
普段何気なく手指の消毒に使っている、この消毒用アルコール(エタノール)と革のお話です。
バッグの持ち手が溶けた?
先日ある人から「お気に入りのバッグの持手が溶けた」と連絡がありました。最初は何を言っているのかわかりませんでしたが、詳しく話を聞くと、消毒用アルコールをワンプッシュ手に取って消毒した後、乾かないうちにバッグを持ってしまう事が多くなり、その影響もあって革の表面が溶けたようなのです。
エタノールは溶剤としても使われるくらいの薬品ですし、消毒用のアルコールは約80%(60%以上と規定されているそうです)と高濃度ですから、革の色となる塗料や表面コーティングの素材によっては、溶ける可能性は高いと思われます。
実際に革にエタノールを垂らしてみました
バッグの持ち手を溶かしてしまった事例はあくまでも推測でしかありませんので、手持ちの革にエタノールを垂らしたらどうなるのか実験してみました。
用意したのは…まず、無水エタノールです。これは純度99.5%と高濃度のエタノールですから、この実験にはうってつけだと思います。普段はカメラのレンズ類の清掃や、モルト剥がしで使用しています。
今回使う革は下記の6種類です。革の端には番号を刻印しています。
1.ブッテーロ(Walpier)・・・植物タンニンなめし
2.ミネルバリスシオ(Badalassi Carlo)・・・植物タンニンなめし
3.ミネルバボックス(Badalassi Carlo)・・・植物タンニンなめし
4.牛ヌメ(栃木レザー)・・・植物タンニンなめし
5.ボックスカーフ(HAAS)・・・クロームなめし
6.トリヨンクレマンス(Rémy Carriat)・・・クロームなめし
それでは実験開始
一滴ずつ革にエタノールを垂らしていきます。
無水エタノールを垂らした直後の様子です。2と4は一瞬で染みこみ、色が濃く変わりました。水を垂らした時と同じような様子です。
・・・10秒後
横から見ると1、5、6はエタノールが染みこまずに弾いているようで、立体的にエタノールが盛り上がっています。
・・・3分後
だいぶエタノールが揮発してきたようです。1は表面がぽつぽつしてきたような気がします。5、6はあまり変化はありません。
・・・20分後
かなり揮発しました。白い布で軽くぬぐうと1のみ赤い汚れが付きました。
はたして革はエタノールでどう変化したでしょうか?
革1:エタノール付着部分に凹み。色は若干濃くなった。
革2:エタノール付着部にわずかな凹み。色は若干濃くなった。
革3:エタノール付着部にごくわずかな凹み。色は変化なし。
革4:エタノール付着部に凹みなし。色は濃くなった。
革5:エタノール付着部に変化なし。色も変化なし。
革6:エタノール付着部に変化なし。色も変化なし。
結果は上記の通りとなりました。植物タンニンなめしの革の方がエタノールの影響を受けやすいことがわかりました。革のオイルの種類や含有量によると思いますが、少なからずエタノールの影響がみられました。
5と6のクロムなめしの革は全く影響がみられませんでした。表面の塗料は溶けるかと思いましたが、意外な結果となりました。ただし、この二つの革はたまたま薬品への耐性があったのかもしれません。ほかのタンナーのほかの銘柄のクロムなめし革ではまた違った結果が出たかもしれません。この実験結果から、クロムなめしはエタノールに強いということは言えませんのでご注意ください。
結論 消毒用アルコールには気を付けましょう
いかがでしたでしょうか。ふとした疑問を実験で検証しましたが、思わぬ結果にビックリしました。くも舎で扱っている植物タンニンなめし革はほぼ影響がみられました。
革には消毒用アルコールは厳禁ということが分かったと思います。そのため街で無意識に行った手指の消毒は要注意ですね。消毒したらしっかりと乾燥させるまでバッグは触らないようにした方がよいでしょう。
また、除菌のために、何でもかんでも消毒用アルコールで拭き掃除してしまいそうですが、革製品にアルコール(エタノール)での拭き掃除はかなりリスクの高い行動であると思われますので、こちらもご注意ください。
以上
消毒用アルコール(エタノール)が革に及ぼす影響についての実験でした。
コメントを残す